ヴァイス・プレジデント番外編


「お前だな、ルリ子に余計なこと吹きこんだ奴ってのは」



カトラリーが入っているアクリルのトレイで、延大さんがガン、と城さんの頭を殴った。

秘書に何喋らせてんだ、とヤマトさんまで殴られる。

私も思わず首をすくめたけれど、延大さんは、巻きこんじゃってごめんね、と優しく頭をなでてくれた。



「よく飲み会に乱入する夫婦だな」

「お前らのおかげで、元夫婦だよ」



城さんの口ごたえに、延大さんが吐き捨てる。

突然電話があって、今から行く、と言われたヤマトさんは、再びまったく状況についていけておらず、呆然としていた。





『絶対何かあると思ってたのよ』

『何かって…』

『誤解しないでね。延大は最高に私を愛してくれてるわよ。でもだからこそ、わかるの』



あの日ルリ子さんは、にこにこと笑いながらそう言った。

自分たちがしでかしたことの重大さに蒼白になるヤマトさんを楽しそうに眺めて、くゆらせていた煙草を、ぎゅっと押し消す。



『私、もう帰らなきゃ』

『もしかして、このためだけに帰国したんですか』

『当然じゃない、他に日本に用なんてないもの』



さらりと城さんに返事をし、派手な柄だけれど不思議とシックにまとまったワンピースをひらめかせて立ちあがった。

慌てて私たちも立ちあがる。



『あの、これから、兄貴とは』

『考えてみるわ』

『か、考えるって…』

『あの人にとっては、自分の心に嘘ついた報いよ。あのね、私は延大を愛してるけど』



私だけのものにしたいわけじゃ、ないの。


ルリ子さんはいたずらっぽくそう言って、ふいに背伸びをすると、ヤマトさんの頬にキスをした。

完全に不意を突かれたヤマトさんは、よろっと一歩下がったはずみに、ガチャンとテーブルに腿をぶつけ。

その有様を、城さんが遠慮なく笑う。

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