ヴァイス・プレジデント番外編

 * * *


嘘。

IT関連の企業に向けて配布される業界誌の、再来月号の打ち合わせに出席していた私は、巻頭のシリーズである、企業のトップに焦点をあてたインタビュー記事の出演者候補の資料を見ながらつぶやいた。

ヤマト先輩だ。



「以前からコアファンに支えられていたが、近年、破竹の勢いでシェアを拡大しつつあるソフトウェアメーカーです」



そのコーナーの担当編集者である先輩が、10人ほどが集まる円卓で説明する。



「就任してじきに一年になる副社長が、なかなか面白い人物という評判も高く、年度末号の特大ページで取り扱うのに、最適かと」



副社長。

私は改めて手元の資料で、先輩の写真とプロフィールを見た。

写真は経済新聞に載った時のものらしい。

対談中のスナップなんだろう、モノクロの四角の中で、記憶の中と同じ、楽しそうな笑顔を見せている。

新聞なんだから、もう少しかっちりした瞬間を載せてあげればいいのに…と思ったけれど。

たぶんその時の記者も、この表情が一番、先輩の先輩らしいところを伝えていることに気がついたんだろう。

やっぱりかっこいいなあ、と30歳にもなって、バカな女の子みたいなことを考えた。



「オーナーの息子だよね? 世襲なのかな、あの会社」

「いえ、役員は外部から引っぱってくることが多い中、彼だけが例外的に生え抜きで、かつ実力であの座についたようです」

「そのあたりの話も、聞けたら面白いねえ」

「私はどちらかというと、エンジニアとしての彼に焦点を当ててもいいと思うわ」



参加者が口々に述べる中、いつもなら私も意気揚々と加わるところなんだけど、さすがに何も言うことが見つからず、黙っていた。

実力で、副社長の座に。

お父さんの会社とはいえ、そんな野心を見せる人だっただろうか?


業界自体が歴史が浅いため、30代での役員は珍しくない。

けれどあの規模の会社で、31歳で副社長というのは、かなり目立つ若さだ。

立身出世なんて、先輩から最も遠い言葉のような気がしていたけれど。

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