許嫁な二人
悠と約束した水曜日は、朝からどんよりとした鉛色の雲が
空をおおっていて、ひどく寒かった。
「こんな日にどこへ行くの?」
そう母親に問いかけられて、唯は有未のところだと嘘をついた。
「そう、暖かくしていきなさいよ、雪がふるかもしれないから。」
唯の嘘には気づかず、母親はそう言って送り出してくれた。
カラカラカラと引き戸を開けて、店の中をのぞいたが悠はいない。
店の中に入って、カウンターから厨房の方にむかって悠くんと
呼んだが、返事がなかった。
店の外もみてみようと踵をかえしたところで、店の奥の裏口の
戸がバタンとしまった音がして、唯は悠が入ってきたのかと
しばらく待った。
でも、だれも現れない。
とにかく外から裏口へまわってみようと唯は外にでた。
店の裏へ続く隣の建物にはさまれた狭い路には、つみあげられた
ビールケースや空き瓶が置いてあって、なおせまいが
唯はそれらをよけて、店の裏へとすすんでいった。
店の角まできたところで、突然、
「いやよ!私は認めない。」
と女の興奮した声が聞こえ、続いてボソボソとそれに応える
ような男の低い声が聞こえた。