許嫁な二人

 悠と約束した水曜日は、朝からどんよりとした鉛色の雲が
 空をおおっていて、ひどく寒かった。



   「こんな日にどこへ行くの?」



 そう母親に問いかけられて、唯は有未のところだと嘘をついた。



   「そう、暖かくしていきなさいよ、雪がふるかもしれないから。」



 唯の嘘には気づかず、母親はそう言って送り出してくれた。






 カラカラカラと引き戸を開けて、店の中をのぞいたが悠はいない。

 店の中に入って、カウンターから厨房の方にむかって悠くんと
 呼んだが、返事がなかった。

 店の外もみてみようと踵をかえしたところで、店の奥の裏口の
 戸がバタンとしまった音がして、唯は悠が入ってきたのかと
 しばらく待った。

 でも、だれも現れない。

 とにかく外から裏口へまわってみようと唯は外にでた。

 店の裏へ続く隣の建物にはさまれた狭い路には、つみあげられた
 ビールケースや空き瓶が置いてあって、なおせまいが
 唯はそれらをよけて、店の裏へとすすんでいった。

 店の角まできたところで、突然、



   「いやよ!私は認めない。」



 と女の興奮した声が聞こえ、続いてボソボソとそれに応える
 ような男の低い声が聞こえた。
< 113 / 164 >

この作品をシェア

pagetop