許嫁な二人
 
  (悠くんかしら、、?)



 そう思い、店の角からヒョイと顔をのぞかせると、そこには
 ふたつの人影があり、女の人の顔が見えた。

 男の人の顔は女の人にむいており、唯からは見えない。

 女の人は、細い腕を男の人の首にまわすと、キスをする
 ように顔を近づけた。

 見てはいけないものを見ているような気がして、唯があわてて
 一歩下がったとき、つみあげられたビールケースに肘があたり
 ガタンと音をたてた。


  (しまった!)


 とっさにそう思ったが、次の瞬間、ふりむいた男の人の
 顔をみて、唯は心臓がとまりそうになった。


  (透くん!)


 振り返った透もおどろいた顔で唯をみている。

 驚き、目を見開いた透の顔のちかくに、まるで透を捉えるかの
 ようにまわされた細い腕をみて、唯はくるりとふりかえると
 はしりだした。



   「美穂、離せ。」

   「いやよ。」



 透は逃げ出した唯を追おうとしたが、首にまわされた腕ははなれない。



   「透!」



 なんとか美穂の腕をふりほどいて、せまい路を走ってぬけたが
 唯はどちらに行ったかわからない。

 それでも透は走った。

 唯をさがして。
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