許嫁な二人
 
 透だってわけがわからなかった。

 唯が血をだしたのを見た途端、考えるよりなにより
 先に体が動いていた。

 たかが鼻血なのに、慌てた自分が忌々しくて、誤摩化すように
 Tシャツを洗うなんて言い出して、、、。

 出逢って言葉を交わしてしまえば、何故2年生の時に顔を
 合わせなかったかと問われると思っていた。

 顔を合わせなかったわけじゃない。

 唯に言った通り、何度か廊下ですれ違った。

 でも、唯は透に気づかなくて。

 声をかけたかったがかけれなかった。

 あんなことがあったのに、まるですべて無かったかのように
 明るく笑う唯を見て、あのことを切っ掛けに変わってしまった
 自分が声なんかかけれるはずがない。

 唯の名前は言葉になることなく、透の喉の奥にとどまっていた。


 それでも、ふと見かける度に目で追っていたから、唯が中学の
 時より、健康になったこと、友達もできて楽しい学校生活を
 送っていることがわかって、ほっとする透がいた。

 今、唯が幸せに笑っているならそれでいい、、、
 そう思っていたはずなのに、抱き上げたときの唯の体の柔らかさや
 まじかで感じた息づかいが、まとわりついて離れない。



   「なんだよ、深刻な顔をして。」



 そう、上から声がしたと思ったら、トンと目の前にラーメン鉢がおかれた。
 湯気の向こうで、悠が笑っている。



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