雨のようなひとだった。

「……俺もね、謝らないといけないことがあるんです」
「え?」
「俺……仕事に夢中になりすぎて彼女にフラれたんです」
「………」

 彼女は黙っている。
 外から聴こえる雨の音だけが、室内に静かに充ちていく。

「……自分勝手だった自分を忘れたくて……利用してた部分も絶対あると思うし」
「………」
「だから俺たちは、きっと……」

 意図的に首をかたむけて彼女の頭に軽くぶつけてみた。
 えい、と声がして反撃された。ちっとも痛くないけど。

 繋いだ手からはとうに力は抜けている。
 解こうと思えば簡単にできるけど、俺も彼女もそうしようとはしなかった。
 続きを問われるかと思ったけど、彼女は何も訊ねてこなかった。

 もう一度目を閉じた。
 しとしとと、聴こえるかギリギリの穏やかな雨の音だけが室内に充ちていく。



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