早春譜
 (ママみたいだ……)

秀樹は思う。


(ママ……此処にいたの?)

直樹は思う。


それでも行く。


「ちょっと待った!」


「その結婚待った!」


三人は祖父にエスコートされて、正樹の元へ向かおうとしている美紀の足元へもう一度駆けつけた。




 「愛してるよ美紀。お願いだー。この結婚を取り止めて、俺のお嫁さんになってくれ」
秀樹がプロポーズする。


「美紀。愛してる。お願いだ、俺と結婚してくれ!」
直樹もプロポーズする。


「美紀ちゃん。俺は教師になる。教師同士支え合いながら生きて行こう。お願いだ。この俺と結婚してください。それと……長尾家の平和のためには、俺と一緒になることが一番だと思うから」
大もプロポーズする。

大は今でも思っていた。
この期に及んでも尚……
自分と結婚することがベストなのだと。


「お前等が美紀ちゃんと暮らせるって言うから、大阪行きを決めたんだ。どうしてくれる」
誰にも聞こえないように二人に言った後。


「約束破ったお前等が悪いんだ。いいか、美紀ちゃんは俺が戴く」

大は強気で本気だった。




 「何ー!?」

秀樹が大に詰め寄った。


「止めろよ二人共。今はそんなことしてる場合じゃないよ」
直樹の言葉に二人は慌てた。

そして又美紀の元へ駆けつけようとしていた。


「ちょっと待った!」
そう叫びながら、もう一人近付いて来た。

それは沙耶だった。


「ねえ、あんた達。美紀ちゃんが誰を好きなのか知ってて言ってる訳?」
あの日と全く同じセリフを言う沙耶。
でも今日は違っていた。


「美紀ちゃんの体の中に誰が居ると思うの!?」

沙耶のその一言で、其処にいる全員が固まった。




 「うそっー! マジ!?」

美紀のお腹をマジマジと見る三人。


「親父汚ったねぇ! 遣ることが早過ぎるよ!」
秀樹は正樹を睨み付けた。


「何なんだ!?」
正樹も固まっていた。


「あれっ? 私なんか悪いこと言ったかな?」


「沙耶さん何とかしてくれよー。誤解されてるみたいだよ」

正樹のその一言で、やっと気付いた沙耶。


「みんなも気付いているんじゃない。美紀ちゃんの体の中に姉が……ううん、アンタ達のママが居るの。それともう一人。美紀ちゃんを産んでくれたママも居るの。ママも美紀ちゃんのママも、パパが大好きだったの。だから、だから美紀ちゃんはパパが大好きだったのよ!」



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