早春譜
 「ありがとう大君。アナタがいたから楽しいかった……心遣いをありがとう」


(そう思うなら、この結婚待ってほしい)

そう、大はまだ諦めてはいなかった。




 美紀の三人に対する感謝の気持ちは嘘ではない。

でも美紀は真っ直ぐに正樹を見ていた。


「私……本当のママになりたい」
美紀はそう言うと、秀樹と直樹を見つめた。


「前から感じていたの。あなた達が可愛くて仕方なかった」


「それなら、何故? 俺達じゃ駄目なんだ?」

秀樹が聞いた?

その答えを知りたくて、直樹も大も聞き耳を立てた。


「沙耶さんに言われて気付いたの。それは、ママの想いだと。だから……パパに嫁がせて。だって……私本当にパパが好きなの」

美紀はそっと祖父を見る。

祖父は頷きながら、静かにその手を離した。


「パパー!!」

祭壇の前で待つ正樹に美紀は声を掛けた。


「そう……私は私以外の誰でもない。結城智恵さんでも、ママの長尾珠希でもない。私は美紀。小さい頃からパパが大好きだった、ただの美紀なの!」




 「そうだ美紀! お前は誰でもない。パパが大好きな美紀なんだ!」

正樹はその両手を広げる。


「愛しているよパパ!」

遂に言えた美紀。

その言葉に涙しながら、正樹は頷いた。


「美紀ー!! 幸せになれよー!!」
やっと言えた三人。
泣きながら祖父の元へ歩み寄った。


「あ、り、が、と、う」
たどたどしく……
でもはっきりと言葉を発した祖父。
三人の頭を両手で抱え込んだ。




 大はやっと、美紀への思いを封印させなくてはいけないと思った。

美紀の幸せのために……

何時も笑顔をたやさなくするために……


その時祖父は三人にメモを見せた。


――私はこのまま、ここで暮らすことにした――
そう書いてある。


「えっ!?」
突拍子のない声を上げようとした三人を慌てて押さえ込んだ祖父。
美紀を見つめた後で三人にウインクを送りメモを見せた。


――君達はあの家で――


「えっ俺達に使わせてくれるのですか?」


――信用しているから――


「でも美紀が居ない」
秀樹が寂しそうに呟いた。


――大君と言ったね。君も一緒に暮らしたら――

それを見て大は喜んだ。

確かに美紀は居ない。
でも、気の合った仲間同士で暮らせるのもいいかもしれないと思っていたのだった。




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