早春譜
 「長尾父娘の結婚式を端から見ていて感動した。自分もあんな風に詩織を愛していきたい。そう思った。だからじゃない。俺は元々この日を選らんでいたのだから」


淳一はおもむろに立ち上がり、説得するかのように詩織をバグした。


「詩織の父親はやはり入学式に出席していた人だったよ。つまり二人は俺達は兄妹ではなかったんだ。それを知った時、頬に温かい物が流れた。それは詩織に対する愛その物の証しだと思ったんだ」

淳一はそう言うと今度は詩織を強く抱き締めた。


(俺はやはり詩織を愛してる。この気持ちは妹に対する物じゃない。俺の純真無垢の心だ)

恋した人が妹とだと解り苦悩した昨日までの自分。
揺れ動いた葛藤。


何度も諦めようと思い、封印しようとした。
でも駄目だった。
恋の炎は益々燃え広がったのだ。


そんな苦悶した日々が脳裏に浮かぶ。
その瞬間、淳一は又焼かれた。
そして……
一生涯詩織を愛していこうと思ったのだ。




 淳一は詩織から離れ、もう一度跪いた。


「詩織はまだ十六歳だ。今なら未成年でも女性は結婚出来るんだ。そのうちに法律が変わるらしいけどね。だから事前にお義母さんには承諾をいただいた。だから……俺と結婚してください」

詩織の手を取り、手の甲に口付けをする淳一。
それは何時か、映画で見たようなワンシーン。
何故だかウキウキしていた自分を思い出した。
それはきっと……
此処へと繋がっている。
そう思った。




 淳一はチャペルの前で新妻となる詩織を待っていた。
やはりケジメは着けなくてはいけないと思っていたのだ。
だから二親に詩織を託したのだった。


でも、それは企てた時から考えていたことだった。
詩織に贈る初めてのサプライズだったのだ。


詩織は淳一の用意したウェディングドレスを抱き締めながら控え室に向かったのだ。


詩織の母には着替えを、淳一の父にはエスコートしてもらうつもりだったのだ。
でもそのまま、戻って来なかったのだ。
いくら待っても戻って来なかったのだ。




 今か今かと気をもんで待っていた淳一は痺れをきたしていた。
でも一向にドアは開かなかった。


(何遣ってるんだ)
淳一はもう、居ても立ってもいられなくなった。


扉の向こうの様子が気になり、そっと近付いてみた。
ドアの向こうでは何かの音がしていたのだ。


(詩織に何かがあったのかも知れない)

淳一は急いでドアまで走り寄った。



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