早春譜
 その頃、それは新ルール・国際ルールとも呼ばれていた。

軟式テニスは、ソフトテニスとして大きく羽ばたいこうとしていたのだ。


珠希が戸惑ったのはサービスだけでは無かった。
一番はジャッチだった。


練習中に審判を置かないでプレーするとどうしても、自らアウトコールをしてしまう。

でも試合中につい出てしまうことも度々あった。


『アウト』などと思わず言ってしまうのだ。

でもルール改正数年後に、その行為が反則に加えてられたからだった。


それは数人でプレーす団体にとっては致命的だった。
そのジャッチ行為を無くすことが第一と考えた珠希は、どんな時でも審判席に座らせることにしたのだった。




 それはやがて一石二鳥の効果を及ぼすことになる。

練習中に全ての部員達が審判力を付けたからだった。

珠希はやはりスーパーレディだった。
だから美紀は愛して止まないのだ。


その珠希の経験は、美紀の部活指導にも生かされていた。

美紀は積極的に部員達に自分の身に付けた物を残そうとしていたのだった。

それはやがて、美紀の夢にもつながることだった。


美紀の夢……
それは珠希の後を追うことだった。


高校総体に出場して優秀な成績を収めた後に、国民体育大会に県民代表として出場すること。
でも今のままではいけないと思っていた。


美紀は更にソフトテニスを極めたいと思っていたのだった。




 詩織の言ったように美紀は超高校生級のソフトテニスのプレーヤーだったのだ。
でも、決してそれを鼻にかけたりしなかったのだ。




 ソフトテニスのコートは、大きく三つに分けられる。

ストロークが打ちやすく、ラリーが続けやすい土のクレーコート。

多少の雨でもプレーが可能な砂入り人工芝の通称オムニコート。

摩擦が大きく、カットサービスが有効なハードコート。

又それに合わせたシューズ選びも大切だった。
でも正樹に負担を掛けたくなかった美紀は、常にオールコート用を愛用していた。


珠希の影響もあって、正樹は多少なりとはソフトテニスを理解していた。
コートとシューズの関係も理解していた。
だから本当は全てのコートに適したシューズを美紀にプレゼントしたかったのだ。


でも家計の負担になると言って、美紀が喜ばないことは解っていた。


美紀は高校生でありながら主婦代わりで、長尾家の台所を預かる大蔵大臣でもあったのだ。



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