Time Paradox

ブルー・トパーズ

ジャックが列車でルッケルンガルに着いたのは、大体昼頃だった。

ルッケルンガル駅に降り立つと、何とも言えないどんよりとした空気を感じる。

空は重い灰色の雲に覆われていて、多くの古い工場が煙を吐いている。

少なくとも200年は張り替えていないのではないか、と言うほどすり減った石畳が雪の間から顔を出している。

多くの人が皆みすぼらしい格好で、忙しなく通り過ぎていく。


ジャックの降りたルッケルンガル駅から孤児院へ行くには、少し歩かねばならなかった。

リリアーナがここを旅立った時よりもルッケルンガルは寒さが増していて、本格的な冬の到来を告げていた。


ジャックは冷える手を擦りながら歩いて行くと、ついに大きな建物に辿り着いた。

この孤児院の院長室は、入ってすぐの右側にある。

ジャックは古めかしい扉をノックすると、歳を取った声が返事をした。

静かにドアを開けると、お辞儀をして中に入る。

「…あれ、あなたはたしか…」

「リリアーナさんを雇わせていただいたジャック・カルローです。本日はお願いがあってお伺いしました。」

そう言ってジャックは丁寧にお辞儀をすると、机に向かっているベディおばさんに歩みを進めた。

「そんなに改まらなくてもいいんですよ。…それで、そのお願いとは？」

「…はい。もしよろしければ、リリアーナさんの好きだった絵本を譲っていただきたいと思っていまして…」

「あら、妙に真面目な顔をしてらっしゃるからどんな事かと思ったら…そんな簡単な事ですのね！」

ベディおばさんは肩の力を抜くと、大きく伸びをして歩き出した。

「…リリアーナは変わった子でね、特にここに来たばかりの頃は魔法がどうとかよく言ってましたよ。だからかしらねぇ、あの本を何度も何度も読み返してたのは…まぁその気持ちは分からなくもないのだけれど。」

ベディおばさんは遠い目をしながら語った。

やがて本のたくさん置いてある大きな部屋まで来ると、ベディおばさんはまた話し出した。

「ここにある本はみんな、寄付していただいた物ばかりです。」

「こんなにたくさん…」

ジャックは円形の部屋をぐるりと見渡すが、かなりの量である。

見たところでは、やはり絵本が多いようだ。


「リリアーナの大好きだった絵本は…」

ベディおばさんがゆっくりと歩き出し、ジャックも後に続いた。


ベディおばさんは奥の本棚で足を止めると、一番下の段からホコリをかぶった大きな絵本を取り出した。

ベディおばさんがホコリを払うと、ブルーの皮表紙に金の文字で描かれたタイトルが現れた。


「…ブルー・トパーズ？」

タイトルはなぜか宝石の名前だった。

「…あの、本当にこの絵本なんですか？魔法とかなんとかって出てくる絵本のはずじゃ…」

「もちろん、その絵本ですよ。ほら。」

ベディおばさんはその絵本を開いて見せた。