Time Paradox

鍵を握る人物

リリアーナとアドルフは地図を片手に、隠し通路で息を潜めていた。

というのも、不審な動きをするルイスの後を付けているのである。

ルイスもまた、何か紙を手にしている。
おそらく２人の作った地図のコピーだろう。


ルイスはずっとあちこちの部屋で盗み聞きしていたが、今度は驚くべき行動に出た。

何と、隠し通路の扉から誰かの部屋に入ったのである。

アドルフとリリアーナは顔を見合わせると、しばらく様子をうかがう。

ルイスの入って行った部屋を地図で辿ってみると、驚くことにそこは現国王、マーカスの部屋なのである。

「ルイスのやつ、父上に何を…」

アドルフが小さな声で言いかけた時、部屋から隠し通路に戻ってきた影は２つになっていた。

リリアーナとアドルフは角に身を潜めながら耳を澄ませると、もう１つの声は紛れもなくマーカスのものだった。

「…マーカス様、アリティア王国は安泰ですので貿易相手国を増やしても大丈夫なのでは？…ですがケインズ家の娘はあのままでもよろしいのでしょうか？」

リリアーナは自分の名前が出ると、心臓が喉から出そうになるのを感じた。

「…アドルフが結婚したいと言っている相手だぞ。そんな相手を殺すなど、アドルフの幸せをこの手で捻りつぶすようなものだ。」

マーカスは低い声でそう言った。

「…そうですか。しかし、あの女を見ていると思い出すのでは？」

「…あぁ。この先何があっても許せないだろう、絶対に。」

「…私も同じでございます。それでは貿易の件、次の会議でお願いいたします。」

「あぁ、提案しておく。」

それだけ言うと、マーカスは自分の部屋へと戻って行った。

２人もルイスに見つからないうちに、音もなく部屋へと向かった。


リリアーナの部屋のクローゼットの扉を閉めると、２人は安堵のため息を吐いた。

「ハンナ様、先ほどの部屋でお話をしましょう。」

リリアーナは頷くと、アドルフの後に続いた。