Time Paradox

黒髪のルクレツィア

昨夜、リリアーナは来なかった。

ジャックはレストランの開店準備をしながらもため息をついた。

デーブルを拭き、椅子を整える。

「ジャック、今日はまだ寝ぼけてるんじゃないの?」

ハレーはほうきを持ちながらジャックに話しかける。きっとテラス席を掃除しに行くのだろう。

「朝は得意じゃないんでね。」

ジャックが気怠げに答えると、ハレーはドアノブを回しかけたところで、何かを思い出したようだ。

「そういえば!最近毎日見かけるわよね、あのお客さん!それもいつも空いてる時間帯に来て、必ずオムレツセットだけ頼んで帰るのよ〜!」

「あぁ、たしかあの黒髪の…」

「そうそう!でもいつもあんな微妙な時間に来るし…あのべっぴんさん、何の仕事してるのかしらね?」

「さぁ?専業主婦とかじゃないですかね?」

ジャックは話題にするほどの話なのかと疑問に思いながら、興味がなさそうに肩をすくめた。


やがていつものように7時半でレストランが開店すると、朝食を求めるサラリーマン達が続々と来店してくる。


そして客の波がある程度落ち着いてきた頃、いつものように黒髪のロングヘアーの女が周囲の視線を纏いながら来店する。

今日は黒地に花柄のブラウスと、ワインレッドのロングスカートというコーディネートだ。

お一人様の客のため、ジャックは女をカウンター席に案内する。

そしてお冷を持って行くと、女が妖艶な微笑みを浮かべてお礼を言い、オムレツセットを注文した。

ジャックはこのタイプの女は苦手で、注文を受けるとすぐに厨房の方へと消えていった。

「カウンターの女性、オムレツセット一つ!」

ジャックが言うと、店長は忙しなく手を動かしながらも返事をした。


そしてまた料理をカウンターに運ぶと、すぐにその場を立ち去ろうとしたジャックを女は引き留めた。

「ねぇ、名前。」

「え?」

ジャックはびっくりして女に向き直ると、女はネームプレートを見つめて頷いた。

「ふぅん、ジャック・カルローね。覚えておかなくちゃ。私はルクレツィアよ。よろしくね?」

「よ、よろしくお願いします…」

ジャックは疑問を残しながらも挨拶をすると、またすぐに持ち場へと戻った。


そしてルクレツィアは食事を終えるとジャックを呼び、ジャックは彼女をレジまで案内する。

ルクレツィアは支払いを済ませると、ドアまで送り届けたジャックに再度向き直った。

「ここ、何時まで?」

「このお店は午前の7時半から午後の9時半まで営業していますが。」

「そうじゃなくて…ジャック、あなたって鈍いの?私はあなたのバイトが終わる時間を聞いてるのよ。」

「えっ?今日は週末なので、おそらく6時前だと思いますが…どうしてですか?」

「そうなのね。じゃああなたのバイトが終わった頃…6時過ぎにアーニャ橋に待ち合わせね?」

「えっ⁉︎」

「それじゃあ…今夜6時で待ってるわ!」

ルクレツィアはそう言うが早く、長い黒髪をなびかせながら店を後にした。
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