Time Paradox
「…買いだ。」

「さすがはデルーロ家、儲かってるわね。ちなみに前金制で、契約書も書いていただく事になっているわ。その情報は何に使って頂いても結構よ。それから…500万が無駄にならないよう、もっと安全な場所に移動しましょう?」


二人は適当な理由をつけて衛兵に外に出してもらうと、大通りに面した大きな白いマンションへと入って行った。

マンションは50階まであり、上下の移動はエレベーターに頼られている。

二人はエレベーターに乗ると、ルクレツィアは35階を押した。

「…真新しいマンションだな。」

「えぇ。出来たのはつい最近らしいんだけど、全ての部屋が入居者で埋まってるわ。…何といっても場所が良いものね。」


エレベーターから降り、部屋の前まで来ると、ルクレツィアがドアに手を当てて魔法で本人確認をする。

鈍く赤い光を放ち、ドアが開いた。

「どうぞ。」

ルクレツィアがドアを開けてランスを部屋に入れると、内側から入念に鍵を掛けた。

白を基調とした部屋はシンプルで、家具も必要なものだけが揃っているという印象だ。

豪華な外観とは裏腹に、意外にも一人暮らしを思わせるような間取りである。

「今お茶を入れるわ、座って。」

ランスを椅子に座らせると、ルクレツィアはお茶を用意した。

「…この部屋はあまり使われていないんだな。」

「えぇ。基本的にチューリッヒ家の人間が暮らす屋敷には外部の人は呼ばない事になっているわ。だから仕事や付き合いでは怪しまれないよう、この部屋に通すの。」

ルクレツィアはそう言うと、用意したお茶とお菓子を並べ、さらに契約書とペンを目の前に差し出した。

「あぁ、気遣いありがとう。」


契約書には、"情報元の口外禁止"や、"秘密厳守"、"完全前金制"などと書いてある。

ランスは全てに目を通すと、丁寧にサインをして札束を置いた。

ルクレツィアがサインと金額を確認すると、契約書の控えと領収書をランスに渡し、札束と契約書などの書類を金庫に仕舞った。


それらが終わるとランスと真向かいの椅子に座り、本題に入った。

「それで、ハンナ・ケインズとジャック・カルローの関係性を聞きたいのよね?」

「あぁ。今現在分かっているところまで教えてくれ。」

ルクレツィアは、カルロー親子がハンナを人間界から連れてきた事、一度アーノルド家に囚われた事、アルバイト先のレストランで摘発された事などをすべて話した。


「…それで、二人は今どんな関係なんだ?」

「本人は何もないって言ってるわ。人間界から連れてきてそこから繋がりがあるだけだ、アーノルド家の人達と同じだって。」

ランスは聞いたことを全てメモし、紙とペンを置いた。

「…本人達は否定しているみたいだが、やはりどうも怪しい。どことなくスキャンダラスな匂いがするんだ。確かな裏を取って記事にすれば…君の情報料を遥かに上回る儲けが期待できそうだ。」

そう言ったランスの黒い瞳もまた、部屋の間接照明を受けてギラついていた。
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