Time Paradox
「…私をお忘れですか?」

その老人は、”紳士” と言う言葉がピッタリの、品のある人物だった。

だが、リリアーナにはそのような知り合いもいないため、まったく身に覚えがなかった。


「あの日私が預かったものをお返し致しますよ。」


老人はそう言って微笑んだ。


「…あの…一体どういう事ですか?それにハンナって…」

「私が描いたあの絵本、お読みになっていただいたのでしょうか?」

「あなたが…描いた…?」

「あの本はあなたの本なのですよ。」


老人はそう言うと、リリアーナの頭の上に手をかざした。


するとその瞬間、リリアーナの頭の中にはものすごい量の映像がフラッシュバックしていた。

その情報を認識するよりも早く、リリアーナの記憶として頭の中へと入ってきた。


「何…これ…?」


痛くも痒くもなかったが、リリアーナはなぜか息が詰まりそうだった。


やがて、それらが全て頭の中に収まると、老人は微笑んで言った。


「ハンナ様、こうしてまたお会いできる事を幸せに思います。」


そして老人は深々と頭を下げた。
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