Time Paradox
やるべきこと

雲隠れ

目が覚めると、リリアーナは先ほどの中庭に横たわっていた。

「良かった、リリアーナ様に戻り方を教えていないと思って…少々強引に引き戻させていただきましたわ。」

そう言うイザベラの手には、小さな懐中時計がぶら下がっている。

「時計の音…」

「そう、この音でしたのよ。異次元には時間が存在しないから、こちらの世界から時計を持ち出すか、井戸に時計を向けて秒針を聞かせることでしか戻って来ることができませんの。」

「そうだったの?危うく戻ってこれなくなるところだったわ、ありがとう!それで…」

「あぁ、城の方達なら先ほど出て行きましたわ。ここにはいないって言ったのだけれどしつこくて…きっと私たちアーノルド家の人間と交流が深いのも知られているんだわ。」

「そんなことまで…」

「きっとリリアーナ様が人間界に来てからの足取りは全てリサーチ済みですわ。それに、あの頃のリリアーナ様は遠目で見てもすぐに分かるような見た目でしたし、この屋敷で行われたパーティーに参加した方々の噂も聞いていたんだと思いますわ。」

そう言うと、イザベラはリリアーナの首に懐中時計をぶら下げた。

「これを肌身離さず持ち歩いて、また城の者が押し掛けてきたらあの井戸に飛び込んでくださいね。きっとしつこくやって来ると思いますから。」

「ありがとう…」

「それでは私はそろそろ失礼しますわ!」

「え、イザベラはどこに行くの?」

「ちょっと会いに行かないといけない人がいて…」

そう言うイザベラの様子はどこか落ち着きがなく、浮き足立っている。

服装も髪型も、いつもよりもどことなく清楚な格好である。

「もしかしてイザベラ…」

「違いますの!きっと私が一方的に…」

「この街に溶け込もうとしてる?」

頰を赤く染めていたイザベラは目を丸くした。

「だってイザベラ、今まではどこから見ても分かるような派手な格好だったから…」

「もう!違いますわ!ニコラスさんがこういう服の方が似合うって言ってくれたから…」

「あぁ!それはつまり…恋ね!」

リリアーナがニヤニヤして言うと、イザベラも今度こそ顔を赤く染めて目を逸らした。
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