Time Paradox

レイラと呼ばれる女

薄暗いが煌びやかなこの店の照明は、レイラを含め、ここで働く女達の美しさを引き立てている。

そんな事を思いながら、レイラは今日も客の死角であるカウンターの裏で、黒く艶めく巻き髪を整えていた。

そしてボトルの並んだ鏡張りの壁で濃い色のリップを塗り直し、小さめのポーチに投げ入れた時、不意に後ろから声をかけられた。

「レイラ、ルイスさんに着いて。…ルイスさん、最近来てなかったのはきっと城でパーティーがあったからなのかしらね?」

レイラと呼ばれた女は長い巻き髪を揺らして振り返ると、首を傾げて答えた。

「ルイスさんは家庭教師だから、ここに来る周期にもムラがあるみたいよ。城で働く人はみんなそうでしょ?じゃあ行って来るわね、ママ。」

レイラはそう言うが早く、痩せこけた男のテーブルの前まで来ると、挨拶をして横に座った。


「レイラ、久しぶりだね。私もなかなか仕事が忙しくて来れなかったが…相変わらず美しい。」

紫がかった薄情そうな薄い唇から、彼女にとっては飽きるほど聞かされた言葉が放たれる。

「私も久しぶりに会えて嬉しいわ、ルイスさん。最近全然会いに来てくれないんだもの…もう来てくれないかと思ったわ!」

レイラはそう言って分かりやすく唇を尖らせると、白く細い手で薄い冊子を手に取った。


「早速乾杯にしましょう。今日は何にします?」

「…そうだな、今日は君の真っ赤なドレスを見ていたから…赤の気分かな?」

「うふふ、よく見てらっしゃるのね…じゃあ次は白いドレスにしましょう。」

そう言ってレイラは注文しつつ、ルイスがゴソゴソと取り出した葉巻に火をつけてやった。

「そういえば…つい先日のパーティーで君の姿を見つけたよ。今日よりもずっと鮮やかな赤のドレスを着て…あのハンナ・ケインズの愛人であるジャック・カルローにエスコートされていたようだね?」

葉巻は火がつきにくく、一度吸って付いたはずのルイスの葉巻の先端は、やはり赤い光が消えていた。

「うっふふ、ルイスさんったら…もしかして嫉妬でもしちゃってるの?彼とは何もないわ。私の通ってるレストランで働いてるから声を掛けてみただけよ。」

再度葉巻に火を付け直すと、今度こそ赤い火からは細い煙が上り、白い煙を吹かしたルイスが話を繋げる。

「パーティー会場にいた私には声を掛けず…か?」

「あら、それはごめんなさい、どこかで見つけたのだけれど…タイミングがなくって。踊りに誘われたり知り合いの方と庭でお話をしていたら…すっかり終了の時間になってしまっていたわ。私も久しぶりのパーティーだったから楽しくてあっという間で…」

そう言いながら、自らが生み出した灰の行方を見ていないルイスの為に、灰が落ちるであろう葉巻の先端に灰皿を置いた。

「ということは…パーティーに参加したりしたことは何度かあるんだね?」

「そうね、たまにだけど…まぁお客さんのお誘いで同伴したりすることが多いわ。」

返事を聞きながらも、ルイスはちょうど良い位置に来た灰皿の上で、葉巻を人差し指でトントンと軽く叩いた。
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