Time Paradox
驚いていたデリックだが、その手をルーカスに回さず、「やめろよ気持ち悪い」と言って引き剥がした。

リリアーナの目には、さほど嫌がっているようには見えなかったが。

イザベラはリリアーナと目が合うと、駆け寄ってくるなり勢いよく頭を下げた。

リリアーナは驚きつつも、近くに頭をぶつける物がなくて良かったと思った。


「リリアーナ様、ごめんなさい。…あの、リリアーナ様のワインに顔面崩壊液を入れたのは私なんです…」

今だに顔を上げようとしないイザベラにリリアーナが促すと、恐る恐る顔を上げた。

「…3時間くらい効果が続くものだったんです。アドルフ様と結婚しなければと考えたら、それしかなくて。」

リリアーナは首を傾げた。

「…アドルフ様がリリアーナ様の事を好きになってしまうかと思ったんです。」

イザベラは目を泳がせながらそう言った。

それを聞いたリリアーナは目を丸くし、アドルフは笑い出した。

「先ほどのあの行動をご覧になりましたよね?僕がハンナ様とご結婚だなんてあり得ないですよ!」

リリアーナは、笑いながらそう言うアドルフに顔を赤くした。

「何よ!アドルフなんて私より弱虫だったじゃない!」

そう言ってリリアーナはつんとそっぽを向いた。

「…それで、リリアーナ様…」

話を逸らされたイザベラだが、またおずおずと切り出し、リリアーナはにっこりと応じた。

「まぁこの通りだから心配しないで!それに効果が3時間だけだなんて、イザベラさんって本当は優しいのね?」

そう言ってリリアーナがイザベラの手を取ると、イザベラはいきなり抱きついた。

どうにもアーノルド家の人間は、感激すると抱きつく習性があるようだ。


すると、急にモーリスが上体を起こして話し始めた。

「リリアーナ様…もしくはハンナ様。おかげさまでこのアーノルド家は無事、平穏を取り戻すことができました。あなた様にはなんとお礼を申せばいいものか…。」

「いいのよ。それに今までの雰囲気じゃデイジー達も居心地悪そうだったんだもん。それで私はもう帰っていいのよね?」

「ダメです!私がリリアーナ様と一緒にワインを飲んでからじゃないと!明日の夜にでも部屋に行きますから、一緒にラッパ飲みしましょうよ!」

そう言ってイザベラはリリアーナにすがりついた。
なぜだかすごく気に入られてしまったらしい。

「…うーん、でも私、こっちに引っ越してきたばかりだから心配だわ。ほっといたらゴキブリが出るかもしれないし…」

リリアーナが考え込んでいると、ルーカスがはっと何かを思い出し、息を飲んだ。

「舞踏会の終了予定時刻を過ぎています!」

その言葉に一瞬静寂が訪れた。

そしてみんなが慌てて動き出し、舞踏会も無事終了した。
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