Time Paradox
昼食が部屋まで運ばれてきた時、リリアーナはアビーにその事を尋ねた。


「…ハンナ様がいない時、ですか？
ハンナ様の部屋に入った人なんて、私が知る限りでは掃除をしに来たメイドくらいですね。それでも使われていない部屋なので、掃除は週に一度でしたけど。」

「…そっか。」

「はい。ですが、メイドにお聞きになれば何か分かるのでは？」

「ありがとう、そうするわ。」

アビーとすれ違いに、お茶を運んできたメイドが部屋へ入る。

「ちょうどよかった！ねぇメイドさん、私がいない間に部屋に入った人って知ってる？掃除してくれたメイドさん以外で。」

メイドは少し驚いた顔をしたが、思い当たる節があったのか、紅茶をテーブルに置いて答えた。


「…噂なのですが、アドルフ様の家庭教師であるルイス・エドワード様が、ハンナ様のお部屋を何度か出入りしていたとの事です。」

「…ルイス・エドワードね。貴重な情報をありがとう。」

「いえ。それから、ルイス様と大臣の誰かが他の空き部屋にも出入りしていたそうです。一緒にいる大臣はいつも違う人で、何か根回しをしているのではないかと…。」

メイドはあまり他に聞こえないように小さな声で話すと、お辞儀をして部屋を出て行った。


「…何でもお見通しってわけね。恐ろしいわ…」

リリアーナは誰も居なくなった部屋でそう言った。

だが、家庭教師のルイスが一番怪しいのは確かである。

その空き部屋で大臣達に気に入られるような事や、根回しをしていたというのは十分に考えられる。

「…でも、何を？」

リリアーナは難しい顔をして、パンの最後の一口を口に放り込んだ。


「…行ってみればいいんだわ。」

リリアーナは立ち上がり、地図を手にした。
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