修羅は戯れに拳を振るう
それ即ち、道場生達が男に『呑まれた』証拠。

男の持つ気配に、闘気に、威圧感に、圧倒された証拠。

それを男も気付いていた。

つり上がる口角。

次の瞬間。

「ぐあぁあぁぁあぁっ!」

男の太い指が、道場生の一人の片目に突き入れられていた。

無抵抗の相手に対して、有無を言わさぬ目突き。

ここが格闘特区とはいえ、ダーティーすぎるその技に道場生達は愕然とする。

格闘特区で行われているのは試合ではなくストリートファイト。

路上の喧嘩だ。

基本的にルールはない。

反則など存在せず、どんな技でも有効。

しかし暗黙の了解として、あまりに非道な技は誰も使わなかった。

その禁を、この男はいともあっさり破ったのだ。

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