鬼部長の素顔


溜まったはずの涙がまた流れる



『部長……本当にお世話になりました』



そう言うと、部長が笑ってくれた
あー……この笑った顔
この顔を見た瞬間から、好きになったんだ



「部長……いいですよ?抱きしめても、」
「そうですよ、私達、見て見ぬ振りしますから、気にせず……」
「早くしてください」
「ここは男を見せましょう」



なんて、周りからガヤが飛ぶ
いつもなら「うるせぇ、」とか
「するわけねぇだろ」と言う


けど、部長は何も言わず
私を抱きしめてくれた



「ちっ……あいつら」


そう耳元で聞こえた
なんか……恥ずかしさと
嬉しさが混じって、ちょっとくすぐったい




「長いっすよー、後は家に帰ってからやってくださいよー」


その言葉に、「うるせぇ、」と笑った部長



夜は私の送別会が開かれた
本当に最後だと思い、
みんなにお酌をしながら
たくさん話して、たくさん笑った


けど、それを心配そうに見る部長の姿に
みんなが笑っていた。
< 307 / 344 >

この作品をシェア

pagetop