季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
順平と出会ったのは5年前。

私がまだ24歳だった頃。


知り合ったきっかけは“幼馴染みが舞台の主役を務めるから一緒に観に行こう”と、半ば強引に友人に誘われ、その舞台を観に行った事だ。

友人と一緒に誘われ出席した打ち上げで、偶然隣に座ったのが3つ歳下の椎名 順平だった。

その頃の順平は役者を目指していて、アルバイトで生計を立てながら、小さな劇団の活動に打ち込んでいた。

“今はまだほんのわずかな出番しかないチョイ役ばかりの下っ端だけど、いつかは大きな舞台でたくさんの観客を前に主役を演じたい”と、目をキラキラさせて言っていた。

その後も何度か舞台を観に行き、打ち上げに誘われて一緒にお酒を飲んだ。

初めてから4度目の舞台の打ち上げの後、駅までの道のりを送ってもらっていた時に“付き合おう”と言ったのは順平の方だった。

私は初めて会った時から順平の事が気になっていたし、次第に次に会うのが楽しみになり、会うほどにもっと会いたいと思うようになっていた。

だから、素直に嬉しかった。



それから2年後。


私はなんの別れの言葉もなく、順平の前から姿を消した。

ただひたすらに夢に向かっていた順平は、現実にしか未来を見出だせない私には眩しすぎた。

どんなに好きでも、順平と同じ未来に向かって歩く事はできなかった。



過ぎて行く時の流れは、決して待ってはくれないのだから。








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