季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
ごめんとありがとうと愛してる。

私の伝えられなかった言葉を、彼は残してくれた。

「陽平…。」

手紙を抱きしめて、一度も呼ぶことはできなかった彼の名前を呟いた。

「ごめん…ごめんね…。」

涙があとからあとから溢れて頬を伝い、ポトポトとこぼれ落ちた。

彼は…陽平は、どんな気持ちでこの手紙を書いたんだろう?

その手紙は、死を覚悟しても尚、私に対する優しさで溢れていた。

陽平は私が逃げ出してしまった事を知らないまま亡くなってしまった。

今更悔やんでも仕方ないのはわかってる。

だけどあの時、もう少し私が強ければ…。

“陽平、愛してる”と最後に一度だけでも言えたかも知れないのに。

“大事にしてくれてありがとう、一緒にいられて幸せだったよ”と素直な気持ちを伝えられたかも知れないのに。

それは陽平の望みではなかったかも知れないけれど、何も知らずに後悔するよりは良かったんじゃないかと思う。

「忘れない…。忘れられるわけないよ…。」

今はもう陽平はここにはいない。

どんなに想っても陽平が戻ってくる事はないけれど…。

せめて、陽平との幸せだった日々の想い出と、陽平の笑顔と優しさを、私の胸に大切にしまっておいてもいいかな?

もう陽平を思い出して、悲しんで泣いたりしないから。

だから今夜だけ。

今夜だけは陽平を想って思いきり泣かせて。

明日からは陽平との幸せだった想い出を胸に、笑って前を向いて生きるから。





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