季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
壮介も結婚するつもりでいるんだと私は思っていたし、何より私は早く結婚したかった。

正直言うと、なかなか結婚を決めてくれない壮介に、少し…いや、かなりイライラしていた。

だからプロセスはどうであれ、私にとってその話は、渡りに舟、棚からぼた餅。

これでやっと結婚できると思うと嬉しかった。

だけど、そう思っていたのは私だけだったみたいだ。

壮介には、私との結婚が決まる少し前から、他に気になる人がいたらしい。

もう2年半も付き合っていたし、年齢の事を考えると、成り行きとはいえ私と結婚する事になったんだから、その人の事はこのまま胸の内に納めておこうと思ったんだそうだ。

それなのに、なんの運命のいたずらか、彼女と深く関わる機会がやってきたんだと壮介は言った。

そこらへんの詳しい事は話さなかったので、二人の間に一体何があったのかは、よくわからない。

ただ、ひとつだけ言えるのは、私とは避妊を欠かさなかった壮介が、彼女との間になら子供ができてもいいと思ったという事だ。

彼女と子供の人生を背負って生きていくと決めた壮介は、私のこの先の人生なんか眼中にないみたいだった。

ついでに言うと、壮介は3日前に彼女の妊娠がわかったと同時に、私にはなんの相談もなく結婚式場の予約をキャンセルして、自分の親には事情を説明したと言っていた。


私の結婚をあんなに楽しみにしていた両親に、私はなんと言えば良いのか。

正直に話すしかないのかな。

みっともないと言ってがっかりする両親の顔が目に浮かぶ。

とりあえず、このままここでぼんやりしているわけにはいかない。


今後の事も考えないと。


仕方ない、帰ろう。



愛の無いあの部屋に。









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