季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
重い足取りでマンションに帰った私は、信じられない光景に直面して、視力1.5のこの両目を思わず疑った。

リビングの入り口に私が立っている事にも気づかずに、壮介がキッチンで見知らぬ女と楽しそうに肩を寄せ合って、料理なんかしている。


なんだそれ?

私が何を頼んでも“めんどくさい”と言って、家事もロクに手伝ってくれなかったくせに!!

…っていうか、なんでここに新しい女を連れて来られるの?

いや、むしろその女。

なぜ平気な顔をして、当たり前のようにここにいる?

ここはまだ私の住居でもあるはずなのに、その図太い神経を疑うよ。


「壮ちゃん、お料理上手なんだねー。」

キッチンから、鼻に掛かった甘ったるい声が聞こえてきた。


は?誰だよ?

“壮ちゃん”って何?

私が“壮ちゃん”って呼んだ時は、“そんな呼び方気持ち悪いからやめてくれ”って言わなかったっけ?


「俺が上手なんじゃなくて、みいながヘタなんじゃないの?ニンジン繋がってる。」

「もーっ、壮ちゃんったらひどーい!!」


なんだこれ?

何この不快感。

いかにも頭の悪そうなこの女に、婚約者を寝盗られた訳だな、私は。

壮介には私という婚約者がいる事をわかって付き合ってたくせに、子供まで作って。

妊娠が切り札か免罪符かなんかだとでも思ってるわけ?


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