季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
壮介に別れようと言われてから、なんで私がこんな目に遭うのかと思ってたけど、奪った側の気持ちを考えた事はなかった。

壮介に選ばれた紗耶香は、どんな事を考えていただろう?

私という婚約者のいた壮介を自分だけのものにできて、紗耶香はきっと幸せだと思ってるんだよね。

他人を不幸にして手に入れた幸せは、どんな味がするんだろう?

人の不幸は蜜の味って言うくらいだから、やっぱりその甘さは格別なのかな。

苦い汁を吸わされた私には、どんなに考えてもわからない。

誰かを傷付けてまで幸せになりたいとは思わない、と思ったけれど。

ごく普通の恋愛をして、ごく普通の結婚をしたくて、いつ消えてしまうかわからない順平との恋愛に終止符を打ったのは私。

何も言わずに急にいなくなった私を、順平はどう思っていたんだろう?

まっすぐに愛してくれた順平から目をそむけて逃げ出した私は、きっと順平を傷付けた。

そうしてまで別の幸せを求めた私も、同じかも知れない。

そこに確かな愛情がなかったからなのか、見せ掛けだけの幸せは、すぐにメッキが剥がれ落ちて、ちっとも甘くなんかなかったけれど。

こう言うの、何て言うんだっけ?


都合の悪い事やつらい事は、全部忘れてしまえたらいいのに。

そうすればきっと、私の中には順平と過ごした楽しかった頃の記憶しか残らない。






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