とっくに恋だった―壁越しの片想い―
テーブルの上に乗るピザやらを見て苦笑いを浮かべた平沢さんを見て、そういえば珍しいなと思う。
飲み会だとかそういうとき、自分の部屋でやるなら平沢さんは料理とか作りそうなものなのに。
でも、平沢さんだって働いているんだし、料理ばかりもしていられないかと納得する。
「華乃ちゃんが一緒に飯食ってくれてたときはさ、全然面倒に感じなかった。なのに、ひとりだとやっぱり色々面倒くせーなってなる」
〝でも今は、鳥山さんがいるでしょ〟
出かかった言葉を呑み込み「人には菓子パンはダメとかすごく言うくせに」と文句を言っていると、歌い終わったのか、土田さんが右隣に座ってきながら会話に割り込む。
「そんな口うるさいこと言ってたのかー、平沢はー」
アカペラ大会はどうやら二順目に入ったらしかった。
恐らく、もう歌うことが気持ちよくなってしまっていて、当初の目的からは逸れているけれど、酔っ払いのすることだ。
音量さえ気を付けてくれたら気にしない。
幸い、隣は私の部屋だし、さすがにその隣までは歌声は届いていないだろうし。
「どうせ彼女にもうるさいんだろー。あ、華乃ちゃん。俺らね、こないだここで平沢の彼女とも飲んだんだよ。あのー、なんだっけ? ビシッとパンツスーツ着てるカッコいい感じの……あ、鳥山さんだっけ、確か」
さっき呑み込んだ単語が隣から聞こえ、肩が小さくビクッと揺れた。
まさか、土田さんの口からその名前がでるとは思わなくて驚いたけれど……友達に彼女を紹介するだとか、別に珍しいことじゃなんだし、と気持ちを落ち着かせる。