とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「こないだ飲んだときは、片付けとか全部平沢がやってたけどさー、鳥山さんもよくこの部屋くるんだろ? 鳥山さん、手伝いたそうにしてたし、させてやればよかったのに」
私を挟んで聞く土田さんに、平沢さんは面倒くさそうに眉をしかめて「どうでもいいだろ、そんな話」と誤魔化そうとするから、土田さんに勢いがついてしまう。
「なんでだよー。よく来るんだろ? 知らないうちに彼女作ってたんだから、それくらい教えろよなー。大学のときからモテるのはいっつもおまえだったんだから」
「おまえ、飲みすぎ。明日も会社あんのに二日酔いとかなったら地獄だろ」
「明日のことは明日考えるからいいの! それより俺は、ここに鳥山さんしょっちゅう呼んでるのかって話をだなぁー」
酔っ払い相手なんだから、適当に答えておけばいいものを、なんでこんな風に頑なに答えないんだろう。
付き合い自体が内緒だとかそういうわけじゃないなら、その理由がわからない。
いい加減、右側から大きな声を出されるのが耐えきれなくて「来てますよ、鳥山さん」と私が代わりに答えると、土田さんが私の方を見て「あ、そうなの? やっぱり呼んでんの?」とにたりと笑う。
「たまに見かけますし。綺麗な方ですよね」
「本当にそうなんだよー。しかも、鳥山さんのほうからガンガンアピールしたとかいうからもう……もう、俺、悔しくて悔しくて」
さっきまでの勢いはどこへやら。
一気にしょんぼりとしてビールをチビチビと飲みだした土田さんに、平沢さんがため息を落とす。