とっくに恋だった―壁越しの片想い―
食に興味が薄い私でも、こうして温かいおいしいご飯を食べると、気持ちが和らいで落ち着くのだから、どんなに機械的な人間には本能が携わっているんだなとしみじみ思う。
……もっとも、私だって、周りの人が思ってるほど機械的でも感情がないわけでもないのだけど。
「すみません。つまらない話しちゃって」
聞かれたとはいえ、一方的に愚痴を吐き出してしまったことを謝る。
こんな話聞かされたところでつまらないだろうなと思って顔を上げたのだけど……平沢さんが予想に反して真面目な顔をしてこちらを見ていたから、驚く。
ツラそうに歪んだ目元に、私も同じようにシワを作ると、平沢さんは口元だけ笑みを浮かべた。
「いや、つまんなくなんかないよ。なんつーか……頭にくるオヤジだなと思うし、実際に俺がその場にいたら相当イラついたとも思うし」
「……でも、眉間、シワ寄ってますけど」
「いやー……だってさ、華乃ちゃんが頑張って耐えたんだなぁって思うと、つい」
そう言って、困り顔で笑った平沢さんが続ける。
「華乃ちゃんって、なんでも平気ですーこんなのなんでもありませんーみたいな態度してるけどさ、実際はそうじゃないじゃん。
嫌なことされたらちゃんと傷つくし、そういう痛みをわかんない人間じゃないから。ツラかっただろうなって思ったらつい」
平沢さんが箸をかちゃりと置いて、私の頭に触れる。
その手にくしゃくしゃと撫でられて、「こども扱い、やめてください」と抗議はしてみたものの。
「えらいえらい。頑張ったな」
そう笑顔で言う平沢さんに、唇を突き出して、髪が乱れることは諦める。