とっくに恋だった―壁越しの片想い―


風邪の引き始めかもしれないし、なにか温かいものを……と考えてはいたけれど。

仕事が終わった身体で作る気にはならなくて、スーパーでは冷凍のドリアとグラタンをいくつかずつ買った。

もともと料理は得意なほうじゃない。
冷凍ドリアは二百円だし、それなりにおいしいしで気に入っているものだから、ひとりで夕飯を済ませるときには、割と高い頻度で登場するメニューだった。

栄養面を考えて買った野菜ジュースの一リットルパックがビニール袋の中でズシリと重さを主張する。

野菜ジュースを飲んだところで、主食が冷凍食品だし……という気持ちは正直あるものの、飲まないよりはいいだろう。

本当に風邪の引き始めだったら、余計に。

ガサガサと音を立てるビニール袋を持って、アパートの階段を上り玄関を開け中に入る。

それから、ひとつのドリアをレンジの中に入れ、500W五分でセットしたあと、残りのものを冷凍庫に入れる。

野菜ジュースは冷蔵庫に入れたあと、洗面所に行き、手洗いうがいを念入りにして戻ると、レンジがピーピーと鳴ったところだった。

テーブルに敷いたマットの上に、ドリアとスプーンを置き、野菜ジュースの入ったグラスも並べる。

そして、換気のためにと、通路側にある小さな窓を開け、部屋の奥にある窓も開けたところで……話し声が聞こえることに気付いた。


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