とっくに恋だった―壁越しの片想い―
『あー……うん、まぁ。仕事関係で知り合った人だから、仕事の話とかもあってさ。
あの人、この間まで関わってたデカイ取引先の人なんだけど、色んなトラブル乗り越えてきたみたいで話してると面白いんだよ。勉強になるっていうか、そんな感じ』
平沢さんは人のことを悪く言ったりしない人だけど、ああいう風に褒めるってことは、かなり鳥山さんのことを認めている証拠だ。
鳥山さんは、サバサバしてそうな印象だったし、ああいうしっかり者の彼女が平沢さんには合うと思う。
面食いだとか言ったときに否定していたのはきっと、ただの照れ隠しで、平沢さんも満更ではないんだろうなぁ。
ああやって部屋に上がらせてるんだから、仕事上の関係だけで終わりにするつもりはないってことだろうと思い、くっつくのも時間の問題だなと考える。
なんだか急にテレビの音がうるさく思えてきて、リモコンに手を伸ばしプツリと消す。
そうしたら今度は、平沢さんたちの声が聞こえてきてしまい、なんだか盗み聞きしているみたいで落ち着かなくて、奥の窓も閉めた。
静かになった部屋。
通路側の小さな窓から入り込む風がもう、すっかり秋に姿を変えていた。
その翌日、平沢さんから夕飯を誘うメールが入ったから。
『自立した生活を送りたいので、しばらくそういうのは遠慮します。勝手ですみません』
そう返した。