とっくに恋だった―壁越しの片想い―


『おー、華乃ちゃんじゃん。すげー久しぶり』と笑った顔は高校の頃から変わらずに、へらっとしていたけれど、やっぱり少し大人になっていた。

もともと凛々しかったところに、自信だとか逞しさがプラスされたような包容力を感じ、ああこれ今もモテてるんだろうな、と容易に想像できた。

サラッとした黒髪は、自然に下りていて、耳が少し隠れるくらいの長さ。前髪の下には奥二重の、大きくはないけれど形のいい、いつも楽しい色を浮かべている瞳が健在だった。

ニッと端のつり上がった薄い唇から紡がれる低く響きのいい、からかうように弾んだ声も、五年前と変わっていなかった。

『お久しぶりです。隣に越してきたので、ご迷惑かけることもあるかと思いますがよろしくお願いします』
『随分な他人行儀だな、おい』
『他人ですし』

ペコリと頭を下げた私に、平沢さんは苦笑いを浮かべた。
――それが、半年前のことだ。

それからというもの、平沢さんにやたらと構い倒される生活がスタートしたというわけだ。

時間をかけて慣らされてしまった関係は、ただ平沢さんに面倒をかけてしまっているようにも感じてしまって少し心苦しい。

とは思うものの、誰かに頼るだとかそういうことが苦手な私にとっては、平沢さんの強引なお節介や優しさは、すごく居心地良くもあるのが正直なところで。

ただの先輩後輩、そして隣人、という関係だけでは収まりきらないようなところまで、お互いに入り込んでしまっていることに気付いたのは、もう随分前のことだ。

だって、週に何度も夕飯を一緒に食べるだとかはさすがにおかしい。
冷蔵庫の中身や、使っている洗剤まで知っているのだって異常だ。

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