とっくに恋だった―壁越しの片想い―
でも、それを言ったら〝んー、でも俺も華乃ちゃんも嫌じゃないなら別にいいんじゃねーの?〟と首をかしげられたので、もうそれからは気にしていないけれど。
平沢さんが世話焼きなのは高校の頃からだし、そういうのが好きなんだろうと私も割り切ってしまっている。
「カット野菜あったから持ってきた。食べるだろ? ドレッシングある?」
カット野菜の袋をひとつ持って入ってきた平沢さんに、「ゴマのならあります」と答えながら冷蔵庫を開け、ドレッシングを取り出し、ついでに食器棚からサラダ用のお皿も取り出す。
〝食器だって高いんだから〟と、ひとり暮らしを始める時に母親に強引に送りつけられた食器。
明らかに〝春のパン祭り〟で集めすぎたものだったけれど、買いに出れば荷物になるし重たいし、いくら百均でそろえたとしてもお金もかかるし。
送ってもらって正直、助かっている。
どれも二枚ずつ送られてきたおかげで、こうして来客があった時にも間に合わせることができるから。
もっとも、うちでご飯を食べる人なんてこの人くらいだけど。
「お。肉じゃがいい具合かな。華乃ちゃん、ランチョンマット敷いて。ランチョンマット」
〝ランチョンマット〟という単語をわざと繰り返す平沢さんを軽く睨んでから、棚から黒のマットを二枚とりだす。
どうやら平沢さんは私が言うまでその単語を知らなかったらしい。
うちでご飯を食べるってなって何度目かのとき。
マットを敷くと、〝なんか店みたいだなー〟と驚いたような嬉しいような顔をしていた。
だから〝ああ、男の人は敷かないかもですね。ランチョンマット〟と返したのだけど。
平沢さんはそれ以来、その単語が気に入ってしまったようで、ことあるごとにこうしてからかうように言ってくる。
響きが好きらしい。