どこにも行かないで、なんて言えないけれど
ちなみに、とびきり甘いのは、当時練習中だった碓氷さんが分量を間違えたから。


自分では処理しきれない甘さに悶絶していたらしい。


しかし、自分で作ってしまった以上食べなければならない。


頭を抱えていたところに、わたしのお母さんから電話があった。


食べるのは小さい子、それも甘いものが大好きだと言う。


碓氷さんは渡りに船と飛びついた。


つまり、わたしは残飯処理に使われたわけだ。


それでもケーキは幼い味覚に合っていたし、お兄ちゃんは優しかったし、ケーキが食べられて満足だった。


今でも覚えてる。


震えるメリークリスマス、の文字。

急遽探してくれたサンタの砂糖菓子。

チョコの家。


そして、それを持ってきたお兄ちゃんは恥ずかしそうに言ったのだ。


「メリークリスマス、風花ちゃん」と。


わたし一人のためのケーキが、わたし一人のための言葉が、嬉しかった。
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