どこにも行かないで、なんて言えないけれど
それから毎年クリスマスになると、碓氷さんが作ったケーキを持ってきてくれるようになった。


よくプレゼントをくれた。


面倒見がよくて、見かけると声をかけて一緒に遊んでくれた。


一人で留守番をする寂しい日は、自分の部屋に呼んでくれた。


友だちとケンカしたと泣くと、その日練習した甘いものを、何かしら分けて慰めてくれた。


碓氷さんはいつでも優しかった。


――だから、わたしは勘違いした。


近所の子どもに向ける人付き合いの言葉と笑顔を、特別なものだと勘違いした。


小さな子だからとよく付き合ってくれたのを、特別なものに思い込んだ。


あのころはまだ分からなかったのだ。


碓氷さんはいつだって年上で、大人で、追いつきようもなくて、もてて、綺麗な彼女がいて。


当然、ちんちくりんな幼子なんか、恋愛対象外に決まっているってことを。




中学生になればいいのかと思った。

碓氷さんは高校生になった。


高校生になればいいのかと思った。

碓氷さんは大学生になった。


そして、ずるずると引きずり続けた今はもう、社会人だ。
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