バナナの実 【近未来 ハード SF】
「お父さんって、そんなに力のある人なんでっ?」と物足りなそうに木片スプーンを振り回す松山が尋ねる。
「一応、名古屋では、有名な建設会社の会長だよ」
へえー。
やすさんの家系、スゴかね。
口を揃(そろ)える二人は、国立美術館で初めて目にするパブロ・ピカソの絵画の前に立ったような表情をする。
「やすさん、なんでドイツ語できるん?」
「サラリーマン時代、フランクフルトに二年駐在してたから」と、指を二本立てて答える。
「当時、俺も若かったから上司によく反抗してねぇ。そしたら、ドイツに飛ばされたよ。さすがに上司に反抗するもんじゃないねと思ったね」
ばつ悪そうに首をかしげる彼を見て、二人は、また爆笑してしまう。やすの話は、いつもユーモアに富んでいた。
「ハワイ生活は、どんな感じなんですか?」
「毎日、ゴルフ三昧だね。接待ゴルフがほとんどだけど。学生の頃、プロゴルファー目指して大会に出た経験があるから、接待ゴルフなんかつまらないね。
ほら! 失敗しろー、とか言いながら仲間とするゴルフは楽しいよ。ハワイはゴルフ料金が安いし、もう毎日ゴルフ!」
「へえー、羨ましいですね」
二人してそんな声しか出ない。
羨望(せんぼう)の次元をも通り越し、自分の世界とは違う、鏡の向こう側に生きる人のように辻には思えた。
やすの話を聞いていると、あっという間に短い針が進む。
「おっ! そろそろ戻るわ。俺、この辺の警察所長と親しいから、何かあったら電話してきな」と携帯電話の番号を紙に書いて辻によこす。
「じゃ、今夜、クラブで会えたら!」
やすは、昼寝のため宿へ戻ると言うので、その場でお開きとなった。