バナナの実 【近未来 ハード SF】
第5章  現在・過去・未来





■ 第5章 現在・過去・未来 ■






小説原稿の郵送から一ヵ月後、辻の自宅にB出版社からA4サイズのノートよりひと回り大きい郵便物が届く。


中には、『作品講評』と数枚の用紙が、出版社オリジナルのファイルに同封されていた。


辻は、早速、自室の黄色いソファーに座り講評に目を通す。



◆作者自身が語っているように、長期にわたりカンボジアやタイに滞在していた体験をベースに、自信の過去・現在・未来の姿を想定して描き上げた作品である。


事実と架空話とが交錯(こうさく)しあう物語だが、『条件が整っていないのです。だから僕は、バナナの実がなる条件を全てこの小説の中に揃えたいのです』


『僕が大金を手にすることは、なんら変わりはないのである』といった絶対の自信はどこからくるのか、読者の興味もそこに尽きるのではあるまいか。




「なるほど、そこが理解されなかったのかあ・・・」

辻は、期末テストの結果を知らされるようなドキドキ感で次に目を運ぶ。




◆カンボジアのカジノ場に足繁(あししげ)く通いギャンブルで身を立てようとする姿や、カンボジア女性との恋模様は、放浪生活の概要(がいよう)を読者に語る。


恋人との官能的な描写あり、ギャンブルで真剣に身を立てようとする姿あり、さらには現地で出会ったいく分いわく有りげな多くの日本人たちとの関係を絡めつつ描いた体験談は、それだけで小説のストーリーとしての素材は充分なほどだ。



「おー! プラス評価じゃん。小説の素材としては、良いという事か?」


辻の踊る心が思わず声に出た。
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