思いがけずロマンチック
6. 王子様と黒い予感

翌朝いつもより早く出社して、意気揚々と紙袋を提げて役員室のドアを叩く。紙袋の中には有田さんへのお弁当。
今日も良いお天気だから、こっそりと屋上で食べてくれる背中を想像しながら。


「失礼します」と呼びかけて、返事も聞かないうちにドアを開けた。


ところが部屋は空っぽ。モニターの陰に隠れているかもしれないと回り込んでみたけれど、有田さんはいない。おまけに机の上は綺麗に片付いている。


今日は外出の予定はなかったはず。
まだ出社していないのかもしれない。


とりあえず出直そうと席へと戻ると、ちょうど益子課長が出社してきたところ。昨日のことを思い出したら怒りが蘇るけれど、ここはぐっと堪えていつも通り挨拶をした。

ところが益子課長は涼しい顔。私から目を逸らすこともなく余裕の笑みを浮かべて、


「おはよう、唐津さんに頼みたい仕事があるんだ、詳しくは後で説明するよ」


とさらりと言う。

まだ有田さんから事情聴取されていないし、お叱りも受けていないというのに余裕があり過ぎる。不審に思いつつ席に着いて、有田さんに渡せなかった紙袋を机の引き出しにしまい込んだ。

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