思いがけずロマンチック
きっと有田さんは予想しているのだろう。戻ったら私が益子課長を問い詰めるかもしれないと。答えはハズレではなく、どちらかと言うと当たり。何気に行動をを読まれてしまっていることが気に入らない。
もやもやしたまま事務所に戻ると、益子課長はいなかった。
「フレックスで退社したみたいよ、莉子ちゃんが外出した後すぐだったから、知ってるのかと思ってた」
と、教えてくれたのは千夏さん。
どうやら私が戻ってくる前に逃げ出したらしい。これで益子課長のやらかしたことはほぼ確定だ。
さらに千夏さんは、私が急いで事務所を飛び出すところを見ていたらしい。あの時の私は、とても声をかけられるような状態ではなかったとまで言われてしまった。何があったのかと最後に付け加えて。
事の顛末を話したら、思った通り千夏さんに笑われた。
「追いかけなくても、本社に電話してデータを送ったらよかったのに、有田さんでなくても誰かのPCにでも……」
「その時は思いつかなかったんですよ、とにかく早く追いつくことばかり考えてましたから」
やっぱり言われた。今思うと追いかけなくてもよかったんだ。そうすれば益子課長に逃げられることもなかった。
「莉子ちゃんらしいね、これで評価も上がったよ、きっとね」
千夏さんが笑顔をくれたから、追いかけた疲れなんか一気に吹き飛んだ。明日も有田さんにお弁当を作らねば。益子課長への怒りも少しの間だけ忘れられそう。