思いがけずロマンチック

思いきりの力と怒りを込めて有田さんの手を振りほどいた。勢いのまま詰め寄ったら有田さんはほんの少しだけ後退り。


「どういうことですか? 冗談って……騙したんですか?」

「騙したんじゃない、からかっただけだ、それより早く手を洗って絆創膏を貼ってこい」

「余計なお世話です、早く出て行ってください、後はひとりでできますから」

「ひとりじゃ危ない、また怪我をしたらどうする?」

「もうしません、放っておいてください」


言い放って足元に落ちたファイルへと手を伸ばす。すると有田さんが私より先にファイルを取り上げて、私の前に立ちはだかった。


「もうファイルに触るな、後は俺が片付けるから、お前は自席に戻って廃棄業者に連絡しておけ」


私を睨んだ有田さんは、絶対に後に引くつもりはないらしい。このまま押し問答を繰り返すのもバカバカしくなってきた。


「わかりました、ではお願いします」


腹立たしさを連れたまま、私は自席へと戻ることにした。もやもやした気持ちが残っているけれど、これは決して敗北じゃない。


でも、さっき見た有田さんの笑顔は嫌いじゃないかも。いつか見た王子様の顔に似ていたから。



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