思いがけずロマンチック
「まあいいや、上手くやれよ」
ふいっと目を逸らして九谷君が歩き出す。ちょうど彼の視線の先にいた彼女が振り返り、九谷君に微笑んだ。
有田さんとの話は終わったのだろうか。
歩み寄る九谷君に腕を絡めて颯爽と去っていく。凛とした後ろ姿が自信に満ちた九谷君にはお似合いな印象だった。
有田さんは再び写真を撮り始めた私の傍で会場を見ている。ひと言も話そうとはしないし、ずっと表情は曇ったままでいつまでも晴れそうにもない。
「さっき話してた方はお知り合いですか?」
堪らなくなって問いかけると驚くそぶりも見せず小さく頷く。但し目も合わさずに抑揚のない声で
「ああ、本社で一緒に仕事をしたことがある」
はっきりと認めた。彼女とは本社にいた時の仲だと。
「そうですか」
息を飲み込むように口を噤んだ。
俯きそうな私の耳に飛び込んできたのは勢いよく台車の転がる音。荷物を運んできた業者の男性は、垂れた頭から作業着の肩にかけてびしょ濡れになっている。
「どうしたんだ? 雨か?」
「はい、急に降ってきましたよ、お二人とも駅まで送りましょうか?」
「ありがとう、止みそうになかったら頼むよ」
有田さんの問いかけに彼は笑って答えた。
胸のむず痒さがじんじんと響きながら痛みへと変わっていく。痛みの理由はわからないけれど、ここに居たくないと思った。
今すぐここを出てしまいたい。
雨に打たれてびしょ濡れになりたい気分だった。