思いがけずロマンチック
8. 王子様と不機嫌な空

今こうして見上げている空のように澄み切った気持ちでいたいと思うけれど、何をするにも私の気持ちはそわそわと落ち着かない。


イベントは無事終了。笠間さんのお店は大盛況だったから今後はもっと集客が見込めるだろう。これからのことを考えると期待に胸が躍るはずなのに、逆に気持ちは下を向こうとしてしまう。


近いうちに笠間さんのお店が閉店してしまう。
気持ちが下降していく原因は明らかだったけれど、私にはどうすることもできない。


「唐津さん、ぼーっとしていないでこっちを手伝ってくれないか?」


向かいの席から益子課長が嫌みな声で呼びかける。モニター越しに見えるいやらしい目が私を挑発しているようにも思えるけれど、今はまともに相手にしたくない。


「はい、何を手伝いましょうか?」

「歓迎会の最終打ち合わせだ、港ホテルに段取りの確認に行ってほしい。私は午後から本社に行かなければならなくなったからね」


いつになく威圧的な声が私を抑えこむ。反論する余地など一切与えない益子課長の意図が、いつも以上に強くストレートに伝わってくる。
おまけに睨まれた私は黙って頷いて返すしかなかった。




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