思いがけずロマンチック
10. 王子様と策士

潮の香りを感じながら見上げた空は青一色。空に対抗するかのように海は眩しい日差しを力強く跳ね返している。真っ白い壁のホテルは競り合う空と海を他人事のように素知らぬふりで、より一層輝きを放っているように見えた。


こんなにも澄み渡った景色の中、私の気持ちは晴れるどころか曇っている。


今日は有田さんの歓迎会。もっと明るい気持ちで臨まなければいけないのに頭の中に浮かんで消える言葉は否定的なものばかり。


あれ以来、有田さんとは会っていない。有田さんは外出したきり出社しなかったから。


念のため歓迎会の日時確認をメール送信したら受信確認が返ってきただけ。ひとまず安心したけれど、胸の中はもやもやしたまま今日を迎えてしまった。


もうひとつの気掛かりは益子課長だ。本社に行ったままで出社せず、今日もまだ姿を見せていない。益子課長から聞いていた本社の偉い人たちもまだ来ていない。


益子課長ぐらいなら放っておいてもいいかもしれないと思ったけれど、本社の方々はそういう訳にもいかず。一応ホテル周辺をひと通り探しに行くことにした。

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