思いがけずロマンチック

「な、何するんですか?」


強気な言葉を吐いてみたところで動揺は隠し切れず、声が震えてしまっている。手を振り払ってしまえばいいのだろうけれど、体が強張って動けない。
まさに蛇に睨まれたカエルな状態。



王子様な有田さんの顔が舞い降りてくる。


今にも目を閉じそうになったところで、有田さんの顔が視界を離れた。代わりに現れたのは柔らかそうな栗色の髪。


「職場に余計な感情を持ち込んだら仕事にならない、わかったか?」


耳元で告げられた低い声が、私の意識を現実へと引き戻す。

有田さんの手が離れて、無事に解放されたけれど気持ち悪さだけが残っている。一瞬でも好きにしてと思った自分が情けなくて悔しい。


「本社でも同じ規則が定められている、わかったら早く帰れ、俺も戸締りをしなければいけないし早く帰りたいんだ」


突き放すように言った有田さんの顔は、もう王子様ではなかった。

セクハラで訴えるべきは益子課長だけではない。もうひとり、ここにもいるということがわかった。






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