思いがけずロマンチック
「有田さんの会社はみんな厳しそうですね」
「いや、指導員によって違う、新人向けにマニュアル化している人もいたし、俺の指導員のようにいきなり当たれと言う人も稀にいた」
「いきなり当たるなんて勇気が要りますね」
「見事に砕けたこともあったが磨いてもらったよ、いい経験だった」
緩やかに口角を上げた有田さんの視線が窓の外へ。真っ暗な景色から飛び込んできた雨粒が、ガラスに打ちつけるのがよく見える。まだ風雨は収まりそうにない。
今日の有田さんは少し違う。これまで見てきた有田さんはもっと無愛想で、つんつんしてたのに意外。
だけど有田さんは、本心から笑っていないように思える。『いい経験』と言いながら、痛い目にあったことがあるのかもしれない。
「当たり外れですね、上司は選べないから……」
言いかけて口を噤んだ。
こんなことを言ったら誤解されてしまうじゃないか。有田さんのことを言ってると思われたら困る。
「そうだな、問題だろうな、上司の当たり外れのないように教育の仕組みも統一していかなければ……」
幸い有田さんに誤解されずに済んだ。
前向きな改革を検討してくれることは有難い。だけど、私が望んでいるのはそんな改革じゃない。
もしここで『益子課長に本社へ異動してもらっては?』と言ってみたら、検討してもらえるだろうか。
いや、違う。今ここで言うべきことは、そんなことじゃない。