【完】ぎゅっとしててね?
「うーん……へへ。お手軽かも、ね」


唇を噛んで、涙を堪えた。


靴を履いて、下駄箱の蓋を閉める。


「じゃあね、ヤヨ。ばいびー」


なるべく明るい声で手を振った。


顔をそらしてヤヨを横切る。
今にも溢れそうな涙は完璧に隠した。




ヤヨなんか、見たくない。


小走りで向かう。


玄関の先。
もっと先。
あたし好みの茶髪で、いい匂い。
いつも優しくてにこにこの慶太くん。



その後ろ姿。
制服をつかんだ。


「わっ、びっくりしたー。って、泣いてる?芙祐ちゃんどうした?」


優しい手。
ほら、髪の毛を撫でてくれる。



「…や、ヤヨなんか、きらい」



「え?どうした?喧嘩でもした?」



化粧ぐちゃぐちゃになるじゃん。
せっかく直したのに。
全部全部ヤヨのせい。
きらい。だいっきらい。




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