強引なカレの甘い束縛
陽太に気づかれないよう、何度か呼吸を繰り返し、昂ぶった気持ちを抑えようと頑張るけれど、一方ではそれが私であればいいなと願う自分もいる。
そんな気持ちを変えるように陽太を見れば相変わらずにこにこ笑っていて、ほんの数秒だけど、見つめあい、その幸せに口もとが緩んだ。
すると、思いついたように陽太が目を開いた。
「システムのプログラムの話だけどさ、山内さんにどこまでもついていく小野さんも勉強するって言って短期集中の講習会に通うらしいから、七瀬も一緒に行ってこいよ。うん、それがいい、それがいい」
「え? 講習会って、私はそこまで必死に勉強するつもりはないんだけど」
「いいからいいから。山内さんに聞いて、申し込んでおくから、小野さんと一緒に頑張ってこいよ。社会人になって勉強できる機会なんてそうそうないし、趣味を広げるつもりで気軽に、な」
「な、って言われても、私にも都合ってものが」
「都合はうまく調整するためにあるものだって、新入社員研修でたたきこまれただろ? 調整力がなければ仕事での成果は期待できないって、人事部のお偉いさんも言ってたよな。だから、頑張れ」
「ちょ、陽太」
今すぐにでも山内さんに話をしに行こうかという軽やかさで背を向けた陽太の腕を慌てて掴むと、陽太の机に何かが落ちた音がした。
「あ、ごめん」
私が空いていた手で持っていたスマートフォンが机の上に転がったようだ。