強引なカレの甘い束縛
「で、あいつ、今は付き合っている男はいないんですよね」
「え、あ、うん、そうだと思うけど」
前言撤回。
かわいいどころじゃない、かなり、めちゃくちゃかわいい。
今、稲生さんが誰のものでもないということを願っているのがすぐにわかる口調に、思わず笑いそうになった。
男前が拗ねる姿はどうしてこんなに威力があるんだろうか。
初対面だし私の隣りには陽太がいるというのに、どきりとした。
「じゃ、明日にでも、いや、今晩中に連絡します。……変わりたいって言ってたけど、変わりすぎだろ」
市川巽は、私と陽太に構わず、小さく舌打ちすると、大きく深呼吸してカウンターの向こうに行った。
入れ違いに出てきた輝さんに何かを告げると、途端ににやりと笑った輝さんに背中を叩かれている。
「なあ、稲生さん、大丈夫か? 彼女と市川巽の温度差ってかなりあるだろ? 逃げる彼女をどこまでも追いかける猛獣って感じだし」
ふと呟いた陽太に、私は曖昧に頷いた。
「まあ、彼女も大人だもん、大丈夫だよ。それより、このサラダおいしいよ、陽太も食べてみて」
「あ、ああ。稲生さんももったいないよな。せっかくの『マカロン』なのにさ」
「ほんとほんと」
私は陽太に相槌をうちながら、そっと体を寄せた。