強引なカレの甘い束縛
「なあ、稲生さんって、今でも市川巽が好きなんじゃないのか?」
「やっぱりそうだよね。鈍感な私でもそう思った」
「高校時代って言ってたよな。もしかしたら、それからもずっと好きだったんじゃないか?」
「そうなのかな。好きな人を忘れるために男性と付き合ったことがあるけど、いつもうまくいかなかったって言ってたけど」
「へえ」
ふと、陽太の声がいつもと違うように感じたけど、私は思い返すように目を閉じ、言葉を続ける。
「あ、だけど、振られても仕方がなかったって言って……」
「へえ、そうなんですか」
やはり、陽太の声よりも低い声。気になりながらも話を続けていると。
「うん、好きな人を忘れるために、別の男性と付き合ったこと、後悔しているっていうか……え?」
やっぱり変だと思い閉じていた目を開いた。
「あいつ、俺以外の男と付き合っていたってことですね」
低い声にはっとし、後ろを見れば、顔はたしかに笑っているけれどその目は寒々とした青い光に揺れている市川巽。
「で、慌てて帰っていったんですね。夕食もほとんど食べず」
「あ、うん。今週忙しかったから疲れたみたいでね」
どう見ても機嫌が悪い市川巽にそう言って、ははっと笑ってみる。
稲生さんが帰ったことに納得していないのか、口もとを歪め、眉間にしわが寄っているし。
接客業にはあるまじき態度だと思いながらも、よっぽど稲生さんのことが気になるんだと思えばかわいくもある。