強引なカレの甘い束縛


私は赤くなってしまったに違いない顔を隠すようにリビングを離れ、バスルームへと向かった。

背を向けた時、陽太がくすくす笑う声が聞こえた。

私が焦っているのはお見通しなのだろう。

バスタブにお湯を張りながら、気持ちを落ち着けるように大きく息を吐いた。

陽太がこの部屋に泊まることは何度かあったけれど、ほとんどは何人かの同期も一緒だったし、たとえ陽太がひとりで泊まるとしても、飲んでいる途中で眠ってしまって仕方なくという感じで。

お互いの気持ちを伝え合って、恋人同士としてひと晩を過ごしたことはなかった。

それも、家に向かう電車の中で耳元に「今日は泊まるから」と、一語一語、艶を帯びた言葉をかけられて、普段とは違う想いを感じずにはいられなかった。

泊まるって、泊まるって。

何度も同じ言葉を脳内で繰り返す私はどんどん緊張し、電車を降りて家に向かう間も何も言えなかった。

そんな私をからかうように見ていた陽太も、何も言わず、ただ手をつないで夜道をただ歩いていた。

「恋人だから、普通のことだよね」

気持ちを落ち着かせるようにそう言って、お湯にお気に入りの入浴剤を放り込んだ。

大好きなラベンダーの香りが浴室に広がり、ほんの少しだけ、気持ちが緩んだ……ような気がした。




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